会期
■2023年5月2日(火)―17日(水)
10:00 -18:00 日曜休廊
※5月3日(火・祝)・4日(水・祝)・5日(木・祝)は開廊いたします。
文字を選び、文字を生きる
森田子龍は、日本の書が海外で評価される基盤を築いた先駆者である。
生前に発表された創作論からは、文字を書くという行為を通して、同時代の美術が追求していた物質的な思考を克服する手段を書の中に見出す姿勢が読み取れる。漢字を紙面に大書した彼の作品は、日常と結びついた文字の像を、抽象画的な次元にまで異化したオブジェのようにも受け取ることができる。だが、この作家にとって「文字」とは自己の外部に冷たく横たわる「ファウンド・オブジェ」ではない。逆に、自己の内から現れ出る命と相即した筆の運動が、「生きられたオブジェ」としての文字を空間に形成するのである。
文字を生きるというこの態度を、稻田宗哉は制作の根幹として森田から受け継ぐ。しかし、その作品は師との重要な相違も見せる。漢字の語義と一体化した自己を実現するために、草書法から離れ、楷書法の骨格によって刹那を動ききるのだ。実存の書への衝動を感じずにはいられない。
栗本高行(美術評論家)
森田子龍・稻田宗哉 師弟展 にさいして
墨人会は昭和27年(1952年)に森田子龍、井上有一らによって旧態然とした書壇と訣別して結成されました。
結成10周年の記念研究会に森田は「書の美しさは筆・墨・紙で書かれた文字における境涯の美しさである」と喝破し、「書は文字を書くことを場として内の躍動が外におどり出て形を結んだものである」とした森田子龍の生き方の結実は、今日なお墨人の揺るぎない書制作活動の原点となっています。
昭和47年(1972年)に師事、平成10年(1998年)に亡くなられるまでの面授・直接指導により、その後は先生の残された作品、書の理論に教え導かれてきました。私が50数年にわたり書に埋没できたのは、ひとえに森田子龍の全存在があったからこそです。
小生思うに、書とは「選びとった文字の骨格を筆と一つになってどう動ききるか、己の全存在がただ書くなかに、動きのなかに、線のなかに、あるやなしや」ここが要の一点だと。
随分前の話になりますが、臨書稽古の後のお茶のひとときにも、「稻田君はゴルフをしますね。身体のキレがないと駄目でしょう」と、両の手をゆるやかにそえて、力を抜いて動かれ、破顔されたことを思い出します。これもまさしく『墨美』創刊号の編集後記にある〈人間全生活の中に書を見る〉の現れの一つかと思います。
森田子龍逝って25年、図らずも永井画廊の永井龍之介さんから師弟展のお話があり、私にはやや面映いところもありますが、ー現代書顕彰第二弾ー「森田子龍・稻田宗哉 師弟展 ー墨人会の系譜ー 」企画の一端を担うことになり、これも子龍・龍之介、「龍」のご縁かとも思います。
ご高覧いただければ幸いです。
2023年5月1日 墨人・稻田 宗哉
主旨
本年1月「上田桑鳩・宇野雪村・赤池艸硲 展」に続く「現代書」シリーズ第二弾。
今回は、戦後「墨人会」を結成、「墨美」誌を主宰するなど美術界に大きな足跡を残された森田子龍と直弟子稻田宗哉の師弟展です。
子龍は“内のいのちの躍動が外におどり出る”入魂の書で世界中のファンを魅了し、没後も国際的評価が高まっています。宗哉は若くして才能を認められ、師の遺志を継ぎ、墨人会代表として活躍されています。
心が震える作品を残された桑鳩、雪村、子龍そして現役の艸硲、宗哉…。
日本のギャラリーの使命として、現代書の意義を発信し続ける必要性を実感しています。厳選した子龍、宗哉の各作品展示、多くの皆様にご覧頂きたくご案内申し上げます。
永井龍之介
作家プロフィール
SHIRYU MORITA
師弟
SOUSAI INADA
森田子龍 「源」
90×69㎝ 1970 墨・紙
〈出品歴〉
森田子龍
「舞」
109.5×54.8㎝ 1973 墨・紙
森田子龍 「観」
69.5×90.5㎝ 1964 墨・紙
森田子龍
森田子龍「樹」
65×96.3㎝ 1969 漆金
稻田宗哉 「源」
70×90㎝ 2021 墨・紙
稻田宗哉
「弾」
70×90㎝ 2022 墨・紙
稻田宗哉 「始」
60×70.5㎝ 2018 墨・紙
稻田宗哉
「歴」
140×90㎝ 2016 墨・紙