棟方志功・駒井哲郎・池田満寿夫は、日本の現代版画史を語る上で最も突出した存在である。彼らの表現は各々に際立った個性を放ち、他を圧した強度な〈美のかたち〉を放っている。しかし、彼らの人生においてはお互いの接点はほとんど無く、各々が独歩の道を歩いて来た。
70年代が幕を開けてまもなく、銅版画家を志す一人の青年が現れた。当時まだ美術大学の学生であった北川健次である。棟方、駒井、池田、この全く表現のスタイルが異なる三人が、この北川の作品に出会い驚嘆し、共に絶賛の言葉を寄せた事は、一つの興味ある現象といえるかもしれない。
強烈な美意識を持つ表現者が他者の作品を評価する場合、そこには自らの美への確信、自らの内に潜む美意識の映しをそこに視るという事は歴史が示している通りである。
銅版画の詩人と言われた駒井は北川の処女作を見て、そこに明らかなるポエジーの発芽を見出し、版画における唯一の表現主義者である棟方志功は、北川の『DiaryⅠ』という作品を見て放心に近い熱い賞賛を示し、池田は22才の北川の全作品を見て、そこに時代を継ぐ確かな才能の出現を確信する。
…彼らは各々に、何をそこに視たのか。本展は、棟方、駒井、池田、北川の各々の代表作を展示する事で、今まで語られなかった現代版画史の深部に光を当て、彼らのより内部に潜む際立った美の真髄を探り、版画にしか出来ない表現とは何かを具体的に問う展覧会である。
-2021年6月永井画廊個展に寄せて-永井龍之介
「DiaryⅠ」
49.5×37.5cm 1974年
エッチング・アクアチント・ドライポイント
Ed.20:Ap.2
「F・カフカ高等学校初学年時代」
36.2×26㎝ 1987年
エッチング・アクアチント・フォトグラビュール
Ed.50:Ap.10
「肖像考-Face of Rimbaud」
(版画集『反対称/鏡/蝶番-夢の通路 Véro-Dodatを通り抜ける試み』より)
38.0×28.5㎝ 2004年
エッチング・アクアチント・フォトグラビュール
Ed.JP48,FR35:Ap.15
「NANTESの静かなる館」
(版画集『黄金律 NANTESに降る7月の雨』より)
28.5×38㎝ 2006年
エッチング・フォトグラビュール
Ed.JP48,EN42:Ap.15
「回廊にて-Boys with a goose」
(版画集『Elements―回廊を逃れゆくアポロニウスの円』より)
28.5×38㎝ 2007年
エッチング・フォトビュール
Ed.JP48,EN42:Ap.15