Artist

作 家

梶岡亨展 / Toru Kajioka

中島 信也 Shinya Nakajima
武蔵野美術大学客員教授,元(株)東北新社 代表取締役

 作家と鑑賞者は何をもってつながるのだろうか。梶岡の作品に描かれているのは色と形だけである。その色の微妙なコントロール、繊細に選び抜かれた形によって生みだされた「光」が僕の心を動かす。ここに生みだされた「光」が僕の心の奥底に収納されていた記憶の中の何かを呼び起こす。それは画面に展開している光景に対して「どこかで見た光景だ」と感じるというレベルの事ではない。視覚というものを与えられてから今日に至るまでに僕が出会ってきた無限の瞬間、その無限の瞬間の中のごく一部が心の奥底に収納されている。それはあるいは現実ですらないかもしれない。高熱が出ていた時に見た夢かもしれない。夢でも現実でもない想念が生んだものかもしれない。自分の意思とは全く関係なく心の奥底に収納された「イメージ」梶岡の作品が生み出す「光」が僕の中のこの「イメージ」に強烈にアクセスするのだ。そしてこの「イメージ」にアクセスする瞬間に僕は僕の人生を瞬間的に体感している。この瞬間に僕と梶岡亨とはつながるのである。この色を決め、この形を選び抜いていく梶岡の目、それは梶岡の心の奥底のイメージに向けられている目である。

 彼の心の奥底のイメージもまた、彼の意思とは関係なく蓄積されていったものであるはずだ。その無意識に蓄積されていく過程、それは現実であれ夢であれ彼の人生そのものであろう。つまり梶岡の作品によって生み出される「光」の力で、僕の人生は梶岡の人生と交差するのである。人生と人生が交差して、心が、動くのだ。作品と対峙することによって自分の人生と梶岡の人生が交差する楽しさ。僕にとっての梶岡作品の、そこが最大の魅力である。(一部抜粋)

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