公募 日本の絵画2022
入賞作品展
2023年3月3日(金)-11日(土)
10:00-18:00 日曜休廊
3月3日(金)17:00~18:00 表彰式
(コロナ感染状況を鑑み、表彰式のみ行います。)
公募 日本の絵画2022
【テーマ】 自然・人間・自然と人間
応募サイズ/ 30号一律
応募資格/ 不問
【審査員】
千住博・山下裕二・布施英利・諏訪敦・永井龍之介
応募点数257点、応募者数186名のなかから厳正な審査の結果、大賞1名、優秀賞2名、各審査員賞5名、入賞7名、入選35名、計50名が選ばれました。このうち入賞以上15名の作品を展示し、画廊HPには入選以上50名の作品を掲載します。各受賞者の今後のご活躍を期待します。
尚、上位3名は一年後以後に特典として各個展を開催します。
永井龍之介
審査会場の様子
公募-日本の絵画2022-
入賞・入選者一覧
大 賞 | 林銘君 | 蜃気楼 | 65×91㎝ | 墨 | 作品はこちら |
---|---|---|---|---|---|
優秀賞 | 亀田千晴 | 堂々巡り | 91×72.7㎝ | 油彩 | 作品はこちら |
優秀賞 | 張媛媛 | 虹色トト曼荼羅 | 91×72.7㎝ | エンカウスティーク | 作品はこちら |
千住博賞 | 三木彩嘉 | 聞きたくない | 91×72.7㎝ | アクリル | 作品はこちら |
---|---|---|---|---|---|
山下裕二賞 | 青栁友也 | 砂礫 | 72.7×91㎝ | 油彩 | 作品はこちら |
布施英利賞 | 田中基之 | 溢・碧・枯 | 91×91㎝ | 油彩 | 作品はこちら |
諏訪敦賞 | 白肌4 | it is | 90.9×72.7㎝ | ミクストメディア | 作品はこちら |
永井龍之介賞 | 松本了二 | 青春の蹉跌(2) | 90×60㎝ | 油彩・漆 | 作品はこちら |
入賞 | 望月昭伸 | 作品はこちら |
---|---|---|
入賞 | 千田正一郎 | 作品はこちら |
入賞 | 金澤隆二 | 作品はこちら |
入賞 | 小林隆之 | 作品はこちら |
入賞 | 松長文絵 | 作品はこちら |
入賞 | 江川京子 | 作品はこちら |
入賞 | 伊庭広人 | 作品はこちら |
入選 | 山本修靖 | 作品はこちら |
---|---|---|
入選 | 野口広美 | 作品はこちら |
入選 | 岡部仁美 | 作品はこちら |
入選 | 岡田わ | 作品はこちら |
入選 | 真柴毅 | 作品はこちら |
入選 | 北村武志 | 作品はこちら |
入選 | 須貝昌春 | 作品はこちら |
入選 | 友滝人史 | 作品はこちら |
入選 | Monzo渡邉 | 作品はこちら |
入選 | 中野淳也 | 作品はこちら |
入選 | 神谷武 | 作品はこちら |
入選 | 中村龍二 | 作品はこちら |
入選 | 齊木敦智 | 作品はこちら |
入選 | 村松泰弘 | 作品はこちら |
入選 | 八木原由美 | 作品はこちら |
入選 | 田中佑 | 作品はこちら |
入選 | 土屋美咲 | 作品はこちら |
入選 | 阿部涙乃亜 | 作品はこちら |
入選 | 松下俊 | 作品はこちら |
---|---|---|
入選 | 直江俊雄 | 作品はこちら |
入選 | 阿部貴行 | 作品はこちら |
入選 | 阿部良広 | 作品はこちら |
入選 | 加賀谷一樹 | 作品はこちら |
入選 | 林寿朗 | 作品はこちら |
入選 | 大森隆史 | 作品はこちら |
入選 | 大澤沙友理 | 作品はこちら |
入選 | 川上智久 | 作品はこちら |
入選 | 村松元子 | 作品はこちら |
入選 | 大沢順二 | 作品はこちら |
入選 | 続木唯道 | 作品はこちら |
入選 | ヨハネ菅谷扶美雄 | 作品はこちら |
入選 | 織田泰児 F | 作品はこちら |
入選 | 立尾美寿紀 | 作品はこちら |
入選 | 深井実 | 作品はこちら |
入選 | 室井祐児 | 作品はこちら |
(表記は受付番号順です)
講評
2年ぶりにこの永井画廊が主宰する「公募 日本の絵画」の審査に携わった。まずは全体を通覧して、前回よりもレベルが高くなっていると感じた。そして他の審査員たちとは気心が知れているから、審査は順調に進んだ。
大賞の林銘君さんの作品は、不思議な水墨画である。おそらく、中国において水墨画の基本的な技法を身につけているのだろうが、そこから発展して、伝統的な水墨画から踏み出す現代的な表現を目指しているのだと思う。
優秀賞の亀田千晴さんの作品は、私が今回もっとも高く評価したものである。背景の複雑な構造物と主役の人物とのコントラストが素晴らしい。そして私の個人賞とした青柳友也さんの、なんとも寡黙な静物画。煉瓦、蝋燭、ガラス瓶、そしてマッチの燃えかすが描かれているのにグッと来た。
今回の受賞を機に、各作者が新たな一歩を踏み出すことを期待したい。
山下裕二
それぞれの年齢・人生の絵画たち
今回の大賞は中国から留学中の大学院生・林銘君さんの『蜃気楼』に決まった。モノトーンの画面に衝立のような四角が並び、その間にカタツムリが這っている。殻は黒の円で、それがカタツムリの体の滑るような質感と奇妙なコントラストになっている。なぜ、殻は黒い円なのか、なぜ四角い衝立がジグザグに並んでいるのか、謎めいている。その小さな謎たちが、尽きることのない思索を誘う。大作感や傑作感の構えがあるわけではないが、このひっそりとした絵は、シュールな魅力を冷たく放っていた。
布施英利賞は、田中基之さんの『溢・碧・枯』。湖畔のさりげない風景が、三分割の画面で横への広がりを見せている。今回の応募作には60歳代前後の方の作品が多く見られた。仕事を定年でリタイアしようとする時、人の目には何が映るのか。それは社会の外にある自然の「風景」なのかもしれない。この作品は、そんな絵画というものの機能・意味を象徴していると思えた。
布施英利
今回の審査では、そもそものこの公募の目的とは何だったのかと考え込んでしまうことになった。募集要項には「次代を担う画家の育成、顕彰を目的とし」とある。しかし主催者、そして応募者にとっても、その文言にどれほどの切実さがあったのだろうか。応募者の年齢層比率が高齢者に傾いていることは、あらゆる公募展に見られる現象で、日本の社会状況をそのまま映している。しかしこれをポジティブにとらえるなら、生涯教育が行き渡った帰結として、高齢者が元気で表現欲求が衰えないこと自体には、希望を見出すことができるのかもしれない。本展の審査をもって「日本の絵画」全体の行く末を透視することは無理な相談であろうが、せめてその中で印象に残ったものについて言及する。
上位三賞のうち2名が20代、1名が30代、そしてうち2名が留学生であった。大賞を受賞した林銘君の「蜃気楼」は水墨画というきわめて東洋的な描き方を選択しながら、不思議な画面で支持を集めた。優秀賞 張媛媛「虹色トト曼荼羅」は、横浜国立大学の赤木範陸教授直伝の、失われつつある古典技法Encaustic (エンカウスティック)を駆使し、モダンな画面にまとめている。三者の中で最もみずみずしさを感じたのは亀田千晴の「堂々巡り」であった。ネット上では内在してきたヒエラルキーが無化されたかのように、あらゆる造形言語の絵が画像として並ぶが、それらを浴びるように摂取してきた世代の絵であることを強く感じさせた。応募作中、サムネイル化したときにもっとも押し出しが強い。そういった意味でも「次代を担う画家」を感じさせる応募者だった。
個人賞には白肌4の「it is」を、シンプルに見た印象が新鮮だったので選んだが、白肌4の経歴はじつにユニークなものだった。イラストレーターとして商業分野で活躍をし、2010年60歳で画家に転向した73歳。いつからでも人生を再起動させられることを堂々とした作品をもって示し、これも高齢化社会における「次代を担う画家」の新たな提案であるかもしれないと思った。また、松長文絵の「Naked man working」の不穏さや、荒削りで受賞には至らなかったが、田中佑の「新しき世界」には、現在の若い具象画家たちが共有している、膠着状態を突破せんとする意欲が感じられた。
諏訪 敦
6回目の本公募展には、これまでの上位賞常連組から新鋭までレベルの高い作品が揃った。
特に上位3名は現状評価に加え将来性も加味されての受賞となった。
林銘君作
新鮮な絵画だ。白いかたつむりと和紙が共存している様を微妙な墨の濃淡を生かした描写で表現した作品は、神々しくユーモアもある。水墨画の新しい可能性を秘めた画家として期待したい。
亀田千晴作
赤と黒に自身の心情を託した作品から湧き上がる素直な思いが伝わり好感を持った。これからどんな絵画が生まれるのかわくわくさせる未知の魅力を感じる。
張媛媛作
弊廊で昨年個展を開催、好評を博したが、決してひいきで選ばれたのではない。エンカウスティーク技法と中国由来の水墨精神、生来のユーモアが相まち自身の個性が確立されているからこそ各審査員の評価も高かった。
松本了二作
漆と油彩を効果的に生かし、無限に続く宇宙の闇に人生を、浮遊する隕石に自身を重ねた作品にシンパシーを持った。引き算の美学から生まれた熟練の味がある。
永井龍之介
「現代の絵画2022審査に参加して」
芸術家にとって以下の二つの心構えがとても大切である。このどちらかに偏ってはならないし、片方だけということはそもそもあり得ない。それはまず、作品が類型のない新しい切り口に拠っているか、そして二つ目は、自分がどのような流れの中に身を置く芸術家か、という認識だ。前者だけだと、美術史の中で宙に浮くし、後者だけのケースとして、結局狩野派の衰退はそれが一因だったと私は考えている。その様な事を踏まえながら俯瞰した今回の「日本の絵画2022」であったが、審査が終 わり、何人かの優れた画家たちの作品が心に残った。
林銘君さんの作品の、衝立の間から這い出してくる、または躊躇しながら佇む黒く塗られた殻を背負うカタツムリの姿は、さまざまな意識を纏いながら生きる作者の心の代弁に違いない。衝立の隠れた絵柄も神秘的で巧み、これは形骸化された歴史の暗示であると同時に、かつ伝統文化に対する惜しみない敬意であろう。この発光するが如くの画中画は芸術自体に対する希望だと思った。優れた国際水準の作品に出会えたと感じた。
張媛媛さんの古代壁画の様な絵肌を持つ作品から醸し出される空気感は、悠久の時の流れと現代を生きる自らをかさね合わせようとするクリエイティブな挑戦の賜物で、それは曼荼羅の様でもあり、現代の最先端の映像世界の様でもあり、ホーキングの宇宙論のように上下左右に始まりも終わりもなく無限に続いてゆく。
三木彩嘉さんの作品の示す多様な物語は、耳を塞ぎたくなるような現代人を取り巻く不安感や、心の動揺、危機感、恐怖、嫌悪といったネガティブな負荷の協奏だ。しかしそれが豊かな色彩で描かれ、饒舌な黙示録として世界の終末を伝えるに至り、作品は魅力ある芸術作品として見事に昇華されている。
亀田千晴さんの溢れ出る才能は審査員全員の認めるところだ。また最後まで賞候補に残った江川京子さんの虚実相まみえる不思議な世界、伊庭広人さんの超越的な光景も印象的だった。
千住博(画家・日本芸術院会員)